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神戸地方裁判所 平成8年(ヨ)446号 決定

債権者

松本重一

黒田重利

井谷太佳雄

右三名代理人弁護士

深草徹

増田正幸

債務者

中央港運株式会社

右代表者代表取締役

向井隆一

右代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

松下守男

債務者補助参加人

中央港運労働組合

右代表者組合長

崎田克己

右代理人弁護士

藤本久俊

主文

1  債権者らが債務者の従業員である地位を有することを仮に確認する。

2  債務者は、債権者らに対し、それぞれ次の金員を仮に支払え。

(一)  債権者松本重一に対し、金二一万九四二八円及び平成八年一二月から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで毎月一日限り一か月当たり金三九万二七九〇円の割合による金員

(二)  債権者黒田重利に対し、金二一万七一三二円及び平成八年一二月から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで毎月一日限り一か月当たり金四七万一七五〇円の割合による金員

(三)  債権者井谷太佳雄に対し、金二五万一九七四円及び平成八年一二月から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで毎月一日限り一か月当たり金五二万一四九〇円の割合による金員

3  債権者らのその余の申立てを却下する。

4  申立費用は債務者の負担とし、参加によって生じた費用は債務者補助参加人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  債権者ら

1  主文第1項と同旨

2  債務者は、債権者らに対し、平成八年一一月から本案判決確定に至るまで、毎月一日限り、一か月当たり別紙仮払金一覧表記載の金額の割合による金員を仮に支払え。

3  申立費用は債務者の負担とする。

二  債務者

1  債権者らの申立てを却下する。

2  申立費用は債権者らの負担とする。

第二当事者及び補助参加人の主張

当事者及び補助参加人の提出した主張書面に記載のとおりであるから、これらを引用する。

第三当裁判所の判断

一  前提となる事実

1  債務者は、船内荷役、沿岸荷役、海上コンテナー運送及び内航海運などを業とする会社であって、約二三〇名の従業員を雇用している。そのうち、船内荷役部門に属する従業員は、約一一〇名である。(争いがない。)

2  債務者の会社には、船内荷役部門の従業員で組織する債務者補助参加人(以下「参加人組合」という。)のほか、各部門毎の従業員で組織されている中央港運沿岸労働組合、中央港運陸運労働組合、全日本海員組合がある。(争いがない。)

3  債務者と参加人組合との間において、「債務者の船内従業員は、すべて参加人組合の組合員でなければならない。債務者は、参加人組合から除名された者又は参加人組合を脱退した者を解雇する。債務者が新たに雇用した船内従業員は、参加人組合に加入するものとする。」旨のユニオン・ショップ協定(以下「本件協定」という。)を含む労働協約が締結されている。(〈証拠略〉)

4  債権者らは、平成八年九月三〇日まで、債務者の従業員であり、船内荷役の作業員として稼働していた者であって、かつ、参加人組合の役員(債権者松本は副組合長、同黒田は書記長、同井谷は執行委員)を務めていた。(争いがない。)

5  債務者の船内荷役部門に属する従業員のうち債権者らを含む一〇名は、同年九月三〇日、全日本運輸一般労働組合神戸支部(以下「運輸一般労組」という。)に加入して、同支部中央港運分会(以下「分会」という。)を結成するとともに、同日、参加人組合を脱退した。(〈証拠略〉)

6  参加人組合は、同年一〇月一日、右5記載の一〇名を除名し、その旨債務者に通告するとともに、本件協定の履行を求めた。(〈証拠略〉)

7  債務者は、同日、債権者らに対し、同日付けで解雇する旨の意思表示をした。右解雇の理由は、参加人組合から債務者に対して、参加人組合が債権者らを除名したとして、本件協定に基づく解雇の申入れがなされたことによるものである。(争いがない。)

二  本件解雇の効力について

1  労働者には、自己の団結権を行使するために加入する労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結していない労働組合の団結権も尊重されなければならない(憲法二八条の解釈上、労働組合の団結権に優劣を付けることは許されない。)から、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇のもとに特定の労働組合への加入を強制することは、労働者の労働組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されない。このような観点から、ユニオン・ショップ協定のうち、これを締結した労働組合以外の労働組合に加入している者、並びに、締結した労働組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について、使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条に違反するものとして、無効と解される(最高裁判所平成元年一二月一四日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二〇五一頁参照)。

債務者は、ユニオン・ショップ協定のもとでは、除名即解雇という強制力によって労働組合の内部統制を維持することに焦点がある旨、或いは、労働組合からの除名が本来的に有する組織的強制機能は、ユニオン・ショップ協定によって解雇の脅威が加わることにより一段と増強されることになる旨主張する。債務者の右主張は、まさに、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇のもとに特定の労働組合への加入を強制するものというべく、その主張のとおりの効力を認めることはできない。

債務者及び参加人組合は、参加人組合を除名された者に対してはユニオン・ショップ協定の効力が及ぶ旨主張する。しかしながら、ある労働組合にとって反組合的な従業員の言動があったとしても、それは当該労働組合と従業員の間の問題であって、右事実から直ちにその従業員の団結権を考慮する必要がないとはいえず、その従業員が他の労働組合に属することになった場合、使用者に当該従業員の解雇義務を負わせる合理的理由があるとはいい難いから、債務者及び参加人組合の右主張をたやすく採用することはできない。

また、債権者らに対する除名処分は、債権者らが参加人組合から脱退した後になされたことが明らかであり、かつ、参加人組合は、脱退した者全員に対して除名通告(〈証拠略〉)をしながら、その後、運輸一般労組から脱退する旨の意思を表明した七名については、参加人組合への再加入を認めた(〈証拠略〉)こと、除名に値する事由として参加人組合及び債務者が主張するところも、労働者としての非違行為等をいうものではなく、結局は労働組合活動の進め方等に対する考え方の相違の域を出ないものであって、参加人組合に対する分派的行動を非難するものであることから判断すると、債権者らに対する除名処分は、参加人組合から脱退したことをその理由とするものとみるべきである。したがって、債権者らは、参加人組合からの除名処分に先立って、参加人組合を有効に脱退したものと認められる。そうすると、参加人組合を有効に脱退して運輸一般労組に加入し、分会を結成した債権者らについては、本件協定に基づく債務者の解雇義務は生じないというべきである。

2  以上により、その余の点について検討するまでもなく、債務者のなした本件解雇は、本件協定に基づく解雇義務が生じていないのになされたものであって、客観的に合理的理由を欠くものというべく、ほかに解雇の合理性を裏付けるべき特段の事由も認められないから、解雇権の濫用として無効であるというべきである。

三  仮処分の必要性について

1  前記のとおり本件解雇は無効であるから、債権者らにおいて、債務者に対し、債務者の従業員である地位にあることの確認を求めるとともに、本件解雇までの生活を損なわない程度の賃金の支払を求める必要性があることを肯認することができる。債務者の主張のうちこれに反する部分は、採用することができない。

2  証拠(〈証拠略〉)及び審尋の全趣旨によると、債権者らの三〇日分の平均賃金の額は、別紙仮払金一覧表記載の各金額であることが認められ、また、証拠(〈証拠略〉)及び審尋の全趣旨によると、債権者らは、債務者から支払われる賃金をもって生計を立てている労働者であって、一か月当たり右各金額程度の生活費を要することが認められる。

3  そうすると、債権者らに対して、本件解雇以後(本件解雇以後現在まであまり日時が経過していないことを考慮すると、解雇時点以後の賃金の支払を受ける必要性を認めるべきである。)本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで(これ以後の部分については、仮処分の必要性を認め難い。)、その支払日であると認められる毎月一日に、一か月当たり右各金額(ただし、平成八年一一月一日に支払われるべき賃金については、解雇までの分として、債権者松本において一七万三三六二円、同黒田において二五万四六一八円、同井谷において二六万九五一六円の各支払を受けたものと認められる((〈証拠略〉))から、右部分は控除されるべきである。)の支払を命じるのが相当である。

四  結論

以上により、主文のとおり決定する。なお、事案の性質上、認容する部分については担保を立てさせないで仮処分命令を発することとする。

(裁判官 妹尾圭索)

〈別紙〉 仮払金一覧表

〈省略〉

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